飛車落ち定跡 第4章 6四歩持久戦型 新手法の仕掛け➀

 今回から基本図の6四歩型の検討に入ります。6四歩型は現在のプロ棋士が主力としており、飛車落ち戦では最近の実戦例も多い形です。また、6四歩型から派生した6二玉のまま駒組する上手の指し方もあり、木村一基九段が指しているようです。佐藤康光九段の実戦譜も将棋DB2に載っています。

 6四歩型は、所司和晴六段の「駒落ち定跡」で詳しく解説されており、定跡手順も独自の研究を加えた優れた内容です。定跡の本線は、基本図から8七銀型(銀冠)に組み▲4五歩、△同歩、▲同銀の仕掛けです。ただ、上手4二銀型(本の中の分類)のみ曲線的な手順になっていますが十分なものと思います。

 最近、遠山雄亮六段は自身のブログ「飛車落ち右四間定跡、将棋AIの評価値で判明した銀冠のワナ」で、従来の定跡の銀冠と▲4五同銀が評価値を下げていると指摘しています。下手の玉の囲いは金無双で十分であり、仕掛けは基本図から、▲2六歩、△2四歩の後、▲2五歩、△同歩、▲4五歩、△同歩、▲4五桂の手順を推奨しています。ただ、この手順も下手優勢ではあるものの、この後の攻め方がはっきりしないところがあります。

 そこで、基本図から直ちに4五歩と仕掛ける手を将棋ソフトで検討したところ、十分成立することが分かりました。基本図の2手前の6九金、6三歩の形での仕掛けは以前、飛車落ち定跡 第2章 3三桂留型の駒組で調べましたが、難解ながらやや無理という結論でした。その形に比較して6四歩が弱点になっており、一見無理な仕掛けですが上手受けきるのは容易ではありません。なお、今回から将棋ソフトは水匠5を使用しています。

第1図の仕掛けを調べますが、6二玉型のまま駒組する形も後述します。第1図では、Ⅰ.△同歩、Ⅱ.△同桂に分かれます。

第1図からの指し手Ⅰ △同歩、▲同銀、△同桂、▲同桂(第2図) 単に▲同桂が大事なところで、▲2二角成は△3七桂成とされて互角の形勢になります。▲4五同銀に△4四歩の変化は後述します。

第2図では、➀△4四銀、➁△4二銀、➂△8八角成、▲同銀、△4四銀、 ➃△8八角成、▲同銀、 △4四歩が候補手です。順次調べていきます。

第2図からの指し手➀ △4四銀、▲5六桂(第3図)

△4四銀は角交換を避けて普通の手ですが、▲5六桂が6四歩型の弱点を突く痛打です。

評価値1100台。
図で上手△5五歩には、▲6四桂、△6三玉、▲5二桂成で△同銀、△同玉いづれにも▲9七角があり下手優勢。その後
▲3五歩の筋が有効になる。

第3図からの指し手 △5五銀打、▲4四桂、△同銀引、▲4一銀、△5五歩、▲3二銀成、△同銀、▲5五角(第4図)

▲5五角が強手で、以下△同銀に▲5三桂成で下手大優勢です。途中▲4一銀に△5五桂は、▲4九飛が落ち着いた手で、△4七歩、▲4六歩と桂を支えて▲5六歩の桂取りがあり下手優勢です。

第4図で粘るなら△5四銀か△4三銀ですが、△5四銀には▲7七角、△5五歩、▲4六歩として3五歩を狙う手が最善です。また、▲7七角に代えて、▲4四角、△同角、▲5三銀、△同金、▲同桂成、△同角、△5二金でも下手優勢です。

 △4三銀には▲7七角で△5五歩には▲5三金、△同銀、▲同桂成、△同金、▲5四銀。△5五桂には▲5六歩、△4七歩、▲1八飛、△4五銀、▲5五角で下手良しです。変化はいろいろありますが評価値で下手かなり優勢です。

第2図からの指し手➁ △4二銀、▲5六桂、△5五銀、▲4四歩、△同銀引、▲同桂、△同銀、▲4一銀、△4三銀、▲5二銀成、△同銀、▲5三金(第5図)

 △4二銀には単に▲5六桂で上手適当な受けが難しい。▲5三金で攻めが続く。

 ▲5六桂に△6三金でも、▲2二角成、△同金、▲6四桂、△同金、▲5三桂成。△8八角成としても▲同銀、△4四歩、▲6四桂で下手良しです。

△5一銀および△6一銀打には▲5二金、△同銀、▲5三銀。
△6一銀は▲5四金。下手優勢

第5図からの指し手 △4三銀、▲同金、△同金、▲3二銀、△4二金打、▲4三銀成、△同金、▲5三金(第6図)

△4二金打に代えて、△4二金は
▲3一銀不成で良い。

第2図からの指し手➂  △8八角成、▲同銀、△4四銀、▲ 5六桂、△5五銀打、▲4四桂、△同銀、▲4一銀(第7図)

 角交換からの△4四銀にも同様の攻め方です。▲4一銀と上手陣を薄くして攻めが続きます。

△4二金右にも、▲3二銀成、△同金、
▲5三桂成、△同銀、▲4三飛成、△同金、▲5二銀の強襲が決まる。

第7図からの指し手 △4二金左、▲5二銀成、△同金、▲3三桂成、△同銀、▲4三飛成、△同金、▲5二銀(第8図)  △4二金左 には強襲が決まります。以下△5三金には、▲6一角、△8二玉、▲7二金、△9二玉、▲4三銀成で攻めが切れません。

第7図から△7一角は▲3五歩。△4六歩は▲同飛、△5五角、▲5二銀成、△同銀、▲5三角、△6二銀、▲5六歩(第9図) 第9図で△4六角は▲4四角成、△4三金、▲1一馬で、以下△4四桂にはいったん▲5七香と受けて下手優勢です。

図で△5三銀右には、▲同桂成、8八角成、▲同銀で、△5三銀右、同桂成、同銀引には▲4一角。
△5三銀上には▲5二角で良い。他にも変化はあるが下手勝勢。

第2図からの指し手➃  △8八角成、▲同銀 、△4四歩、▲5三桂成、△同金、▲7五桂(第10図)

△6一銀は▲4五歩、△同歩、▲2六角。または▲6三銀、△同金、▲同桂成、△同玉、▲8二角どちらでも下手良し。

 上手はこの手順で辛抱するのが最善です。▲7五桂が急所の一手でこれ以外は下手容易ではありません。▲7五桂は、次に▲8三桂成、△同玉、▲6二角の狙いがあります。第10図ではA△7四歩、B.△7一桂、C.△7四銀、D.△6二銀が候補手です。

第10図からの指し手A △7四歩、▲8三桂成、△同玉、▲6二角、△4二金、▲7一角成(第11図)

上手玉が孤立しては、上手指しようがありません。

第10図からの指し手B △7一桂、▲3三銀(第12図) ▲3三銀に△同金は▲4二角とされて桂を7一に使ったため受けがありません。

△3一金、▲4四銀不成、△同銀、▲同飛、△同金、▲5三角、△2二角、▲6二銀、△8二銀、▲7一銀成、△同銀、▲5六桂(第13図) 3一金には飛車を切って決まります。

以下△4三金には▲6四桂。△6二銀には、▲4四角成、△同角、▲同桂で下手勝勢です。

再掲載

第10図からの指し手C △7四銀、▲3五歩、△同歩、▲4五歩(第14図)

【最難関】△7四銀と受ける変化が今回の仕掛けの最も難解な部分です。下手は ▲3五歩、△同歩、▲4五歩 と3筋の歩交換を図ります。第14図では、a.△同歩、b.△3七角、c.△3四角が候補手です。

第14図からの指し手a △同歩、▲同飛、△4四歩、▲3五飛、△3三歩、▲3六飛(第15図)

△3三歩に代えて△3四歩は▲2五飛が好手で▲3三歩を狙って下手優勢。

第15図からの指し手 △2八角、▲4一銀、△3一金、▲3三飛成、△4一金、▲2二竜、△5二銀、▲3三歩、△3一銀、▲2一竜、△1九角成、▲4二歩(第16図)

第15図では、上手△2八角くらいしかありません。代えて△6五歩には▲7七銀、△2八角、▲5一角。

 本譜▲4一銀が狙いの一手で、△1九角成には▲3二銀成、△同銀、▲4二角で良い(△3四桂、▲4二歩)。△4二金には▲3一角があります。△3一金とされると長い将棋になりますが、飛を侵入して下手優勢です。

第14図からの指し手b △3七角、▲4一角、△4二金、▲4四歩、△5二銀、▲4三歩成、△同銀、▲同飛成、△同金直、▲6三銀(第17図) 

 △3七角の瞬間に▲4一角が鋭い一手です。▲4一角に△4八角成は同金としておき、△4五歩には▲5一角で、△4二飛には▲3二角成、△同飛、▲7七銀で▲4一角の狙いで簡単ではありませんが下手かなり優勢です。

第17図から、△同銀は▲同桂成、△同金、▲6一銀、△同玉、▲6三角成。△同金は▲6一銀、△同玉、▲6三桂成、△9二飛、▲5二金、△7一玉、▲4四歩でいずれも寄り筋です。

第14図からの指し手c △3四角、▲4六銀、△3六歩、▲3八飛、△4五歩、▲3五銀、△4六桂、▲3四銀(第18図) △3四角は△6六桂の狙いがあります。激しい手順ですが、第18図の▲3四銀に△3八桂成は、▲2六角、△4四銀、▲同角、△同金、▲5二角があります。△5八桂成、▲同金、△3四銀には▲3六飛、△3五歩、▲3九飛として以下△5五歩には▲4八歩と受けてゆっくりさすのが良いようです。

評価値1200台
再掲載

第10図からの指し手D △6二銀、▲4五歩、△同歩、▲同飛(第19図)

 △6二銀は受け一方の手ですが意外に攻めにくい。第11図では▲8三桂成、△同玉、▲8五飛の狙いがあります。

第19図からの指し手 △7四角、▲3五歩、△4四歩、▲4六飛、△3五歩、▲2六飛、△3四銀、▲3三歩、△3一金、▲5六歩(第20図) ▲3五歩に△4四銀は▲4九飛、△4五歩、▲3四歩、△3八角成、▲4七角で下手良しです。 

 第19図で△5二角は、▲9五歩、△4四歩、▲2五飛で下手良し。以下△3三桂には、▲5六角、△7四歩、▲8三桂成。また、 第19図で△ 7一桂の受けには、▲4四歩、△同銀、▲同飛、△同金、▲5二銀とし、△7四角には▲6一角、△8二玉、▲7二銀で次に▲7一銀成、△同銀、▲6三銀不成がある。△7四角には一気に攻撃はできないが、第20図となれば上手は指す手に困っている。下手は▲3二銀のチャンスをうかがいつつ、▲7七桂、▲8六歩、▲8五歩として8筋からの攻撃を狙って指します。

評価値は1200くらい

これで、 第1図から、Ⅰ.△同歩の内▲4五同銀に△4四歩以外の変化は終了です。変化が多く手間取ってしまったので、次回△4四歩の変化とⅡ.同桂を調べていきます。

  

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