先手中飛車の相振り飛車 女流王将戦から

 相振り飛車における中飛車は、従来あまり好まれていなかったが、最近先手中飛車が振り飛車の主力戦法となってからは、その対策として後手三間飛車等の相振り飛車が採用されるようになり、対局数も増えているようだ。

 研究がすすみ中飛車側も十分させることがわかってきたが、男性プロでは振り飛車自体が少ないこともあり、あまり見ることがない。一方、女流棋戦は振り飛車党が多く相振り飛車の採用率も高いためアマにとっては参考になる。

 女流とはいえ今回女流王将戦を戦う、西山朋佳女流四冠と、里見香奈女流四冠は元奨励会三段で三段リーグこそ突破できなかったものの、最近の男性棋士参加の棋戦でかなりの勝ち星を上げている実力者であり、アマが勉強するには十分以上の存在だと思う。

 今回は女流王将戦を教材に、先手中飛車の相振り飛車の指し方を学んでみたい。なお、検討は将棋ソフト水匠4改を使用しています。PCスペックはAMD Ryzen 7 3700X、RTX2060で、一般の家庭用PCよりは上ですが高性能とは言えないので評価値が少し異なる場合があるかもしれませんがご容赦ください。

第43期女流王将戦 第1局 2021年10月9日 先手西山朋香 後手里見香奈

初手からの指し手 ▲5六歩、△3四歩、▲5八飛、△3三角、▲6八銀、△2二飛、▲5七銀、△4二銀(第1図)

                                                                   初手▲5六歩からの先手中飛車に後手が相振り飛車で応じた場合、以前は▲7六歩と角道を開けていたが、現在は角道を開けず左銀を5七へ繰り出す指し方が採用されている。▲5七銀の後に▲7六歩と角道を開けることで後手からの角交換に手順に8筋へ飛車を転換できる。

第2図 先手の西山さんは▲5五歩と5筋の位を取ったが、最近は 5筋の位 は保留することが多く比較的少ない指し方と思う。△同角なら、▲5六銀、△3三角、▲4五銀となる。

第3図 先手は▲6五銀、▲7五角と中央に圧力を加えたが、その後有効な攻めてがなく、後手がやや作戦勝ちとなったようだ。端に手をつけてソフトの評価では、後手やや優勢の局面となった。


第4図 後手は端で入手した香を4筋に据えて好調。先手の西山さんは▲4八香では受け一方と見たか▲2六歩としたが、後手の4筋からの攻めが決まり後手勝となった。里見さんは作戦勝ちから優位を拡大して勝ち切り、実力発揮の一局だったと思う。

第1局の棋譜はこちらです。

第43期女流王将戦 第2局 2021年10月19日 先手里見香奈 後手西山朋香

初手からの指し手 ▲5六歩、△3四歩、▲5八飛、△3二飛、▲6八銀、△4二銀、▲5七銀、△6二玉、▲7六歩(第5図)

第5図 先手中飛車対三間飛車の典型的な序盤戦。

第6図 左銀の位置の違い以外は先後同形で、最近の角換わりの相振り飛車にみられる形だ。相居飛車の角換わりに似た感じで興味深い。

第7図 先手は、後手の△4四角の自陣角を目標に盛り上がり、序盤やや優勢に進めていたが図の▲2二角が疑問手だったようだ。かえて▲2三角、△2四飛車、▲1四角成が将棋ソフトの示す順で、以下△同飛、△同香どちらでも▲3五金と角を取る。この手順は人間には指しにくいが、 ▲2二角 以下△2四角、▲1一角成、△3六飛で形勢は後手に傾いた。

第8図 上記△3六飛の後▲5七銀、△3五飛、▲3六香、△4五桂と進んだ。 △4五桂 が西山さんらしい豪快な一手。先手は▲同歩、△同飛、▲4六桂と粘る手順もあったようだが、▲3五香と潔く取り△3七桂成から後手が寄せ切った。先手が序盤は指しやすかったようだが、西山さんのパンチが入った形になった。この形の相振りは粘りが効きにくく一方的になりやすいかもしれない。女流四冠同士の頂上決戦だが、一勝一敗となって番勝負しては面白くなった。今後も両者を応援していきたいと思います。

第2局の棋譜はこちらです。

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