今回から3三桂留6四銀型の検討に入ります。
6四銀型は、おそらく戦前昭和の時代ごろまでよく指されていたと思われるのですが、最近のプロ棋士は6四歩型をさす方が多く飛車落ち戦自体が少なくなったこともあり、ほとんど目にすることはありません。
6四銀型は、好機に5五歩を突いてまぎれを求めることもありますが、守備力も強く下手の攻撃を受け止めるには適していると思います。
第1図から下手は▲4五歩と▲2六歩の選択があります。また、▲2六歩を選択した場合、上手が5二金型のまま待機する形と5三金とする形に分かれます。本稿では第1図から▲4五歩と仕掛ける手順を(1)跳ね違い定跡、5二金型を(2)5二金待機型、5三金とする手順を(3)5三金型として順に検討していきます。
(1)跳ね違い定跡
古来難解定跡として知られている定跡です。一般の定跡書では、跳ね違いを避けるため第1図で▲2六歩と突く 指し方が示されています。跳ね違い定跡は、土居市太郎八段の「将棋飛落角落定跡」(昭和11年1936年出版)に非常に詳しく書かれています。本稿では主にこの定跡書を参考にして将棋ソフト「水匠4改」を使って検討していきます。また、山田道美九段の研究および板谷進八段監修の「飛落精妙」による先行研究がありますのでこれらも参照していきます。 「飛落精妙」 は 「将棋飛落角落定跡」をかなり参照しているようです。
「将棋飛落角落定跡」 には、「これから解説してみようと思う桂跳ね違いの戦法は、目下専門家の間において下手不利と断定をくだしている難局である。しかしこれがはたして難局だとすれば現今盛んに用いられている定跡手筋は、根本的にくつがえることとなり、従って駒組手順に狂いを生ずる大問題となるのである。今般本書に執筆する機会をとらえて研究してみたところ、幸いにして下手有利な別れを発見して先輩伝来の定跡の尊厳を傷つけずにすんだことは、飛車落党の方々にも喜んで頂きたいとひそかに思っている。」と書かれています。当時の事情がかいま見れる文章だと思います。
第1図からの指し手 ▲4五歩、△同歩、▲同桂、△2五桂(第2図)
上手は本譜以外に、▲4五歩に△同桂とする指し方、▲4五歩、△同歩、▲同桂に△4四歩とする指し方があります。これについては後述します。
第2図からの指し手 ▲2二角成、△同金、▲3三角(第3図)
第3図を冷静に見れば、守備駒の3三桂がいなくなった場所を攻撃しているので下手が悪いとは思えません。実際将棋ソフトでの検討では、下手がすでに序盤の局面から差を拡げています。
第3図からの指し手 △4四角、▲同角成、△同銀 (第4図)
第3図では△4四角が最善手ですが、➀△同金、➁△2一金が 「将棋飛落角落定跡」 に載っていますので手順をそのまま載せます。
➀同金の変化
第3図からの指し手 △同金、▲同桂成、△4四歩、▲4五歩、△3七桂成、▲4六飛、△2四角、▲4四歩、△4六角、▲4三歩成、△6二金、▲4七歩(変化1図) 変化1図より△4七同成桂は、▲同銀、△1九角成、▲4二成桂。△1三角は▲2三成桂、△3一角、▲3二銀で下手優勢です。
②2一金の変化
第3図からの指し手 △2一金、▲6六角成、△3七桂成、▲4九飛、△4八歩、▲同金、△同成桂、▲同飛、△3七角、▲4九飛(変化2図)△4八金、▲同飛、△同角成、▲3三桂成で下手優勢。△4八金で△3八金は▲6九飛。
◎第4図の局面で定跡の3三角以外に、将棋ソフトが示す下手を優勢に導く新手法がありますので、考えてみてくださ い。この章の(1)跳ね違い定跡の最後に新手法を書きます。
第4図からの指し手 ▲3三角、△同金、▲同桂成、△4三歩、▲3四成桂、△3七桂成、▲4六飛(第5図)
再度3三角と打ち込み第5図まで進みます。途中、△3七桂成と効かされるのが下手としては気になるところで、これが跳ね違い定跡が難解とされた理由ではないかと思います。
第5図からの指し手 △7一角、▲3五歩(第6図)
第5図で△7一角と受ける手が本線ですが、△1三角もあります。
・△1三角の変化
第5図からの指し手 △1三角、▲3五歩、△同銀、▲4五飛、△3六銀、▲4三成桂、△4五銀、▲5二成桂(変化3図)で下手優勢。△3五同銀に▲同成桂、△同角、▲4五飛もありますが、単に▲4五飛が明快です。
第6図で上手の指し手は、Ⅰ.△同銀、Ⅱ.△2七成桂、Ⅲ.△2四歩に分かれます。
第6図の▲3五歩は▲2六飛を用意した手です。上手としては△同銀がほとんど一択で、他は単に▲2六飛を受けた手で評価値がさがります。
第6図からの指し手Ⅰ △同銀(第7図)
△同銀に対して、下手は➀▲4五飛と➁▲同成桂の二つの有力な攻め筋がありますので両方調べていきます。
第7図からの指し手➀ ▲4五飛、△3六銀、▲4三成桂、△4五銀、▲5二成桂(第8図)
▲4五飛は、 「将棋飛落角落定跡」 に載っている手です。下手は▲4三成桂と飛車を捨てて強襲します。
第8図からの指し手(定跡) △5六銀、▲同歩、△6一銀、▲5一金(第9図)
第9図で下手勝勢です。ただ、△5六銀では、△3六銀と銀を渡さない手が優っていますので調べてみます。
第8図からの指し手(変化) △3六銀、▲6一金、△3五角、▲3八歩、△同成桂、▲6六歩、△4九飛、▲2六金、△4四角、▲3六金(第10図)
△3六銀に▲6一金と迫りますが、△3五角の効き筋があってもう一押しが効きません。▲3八歩を効かしていったん▲6六歩と角筋に備えた後▲2六金と角を狙います。第10図以下は、▲4五金か▲4五歩で角を追えば寄せは容易です。
以上が定跡手順ですが、 第7図からの▲4五飛、△3六銀、▲4三成桂に△5一金と引く手があり、これが簡単ではありません。
第7図からの指し手 ▲4五飛、△3六銀、▲4三成桂 、△5一金(変化4図)
(変化4図)からの指し手(定跡) ▲8五飛、△9三桂、▲8六飛、△5五歩、▲9五歩、△5六歩、▲9四歩(変化5図)
▲8五飛は「飛落精妙」に載っている手です。変化5図は下手有利ではありますが、勝つのは容易ではありません。
(変化4図)からの指し手(変化) ▲4六飛、△3五角、▲4七歩、△5五歩、▲4五銀、△4六角、▲同歩、△4七成桂、▲3六銀、△4八成桂、▲同金(変化6図)
▲4六飛は将棋ソフトの検討による手です。すっきりしない手順ではありますが、下手持ち駒豊富で勝ちやすい形勢です。変化6図から△3九飛には、▲6八金として1七角の筋があります。
以上で第7図上手△3五同銀からの指し手➀▲4五飛 を終わります。次回は➁▲同成桂から続けていきます。